現代は見えないネットワーク
バズ・マーケティングの背景になるネットワークについての基礎知識。
「クチコミはこうしてつくられる」に載っている「ネットワークの10の原理」を参照しながら、ここで少しまとめておこう。
まず第一は、ネットワークは目に見えない。
他人が誰とつながっているかというのは、殆どわからない。
ある人が誰とつながっていて、誰からの影響を受けているのかはわからない。
自分と直接つながっていて、毎日のように会っている人のことは多少わかるが、知り合いの知り合いについては、わかっている方が珍しい。
これはおそらく近代以降に起こった現象だろう。
というのもほんの2~300年前の日本では、こんなことは珍しかったはずだから。
江戸時代に日本の8割を占めていたのは百姓や町人だったが、彼らは原則的に移動が制限されており、生まれた土地から外へ出ることは滅多になかった。
江戸時代の藩というのは小さな国であり、藩が発行する通行手形(パスポート)を持たなければ、藩外に出て自由に旅することもできなかったからだ。
また庶民にとって移動手段は徒歩だけであったから、商人や漁師以外の行動範囲は非常に狭かった。
なので当時は、知り合いというと、殆どが自分が生まれた土地に住む者であり、知り合いの知り合いも殆どが同じところに住んでいた。
つまり江戸時代の百姓や町人は、非常に狭い地域のクラスターだけに属しており、外の地域のクラスターにいくつも属すなんてことは、江戸や京都、大坂などの商業地域を除いては、滅多に起こらなかったと考えられる。
見えなくなったのは明治以降
江戸時代以前には、殆どの人が自由に旅行することはできなかった。
治安も悪かったし、道も悪かった。
江戸時代には五街道が整備され、伊勢参りなどの旅行もできるようになったが、それでも通行手形がなければ関所を通れず、殆どの人間が許可なしに藩外に出ることはできなかった。
ところが明治維新による廃藩置県以降、職業選択の自由や移動の自由など、様々な制限が取り払われて、人々は自由に移動することができるようになった。
全国に鉄道が敷かれ始め、道路も整備され、物も人もどんどん動くようになった。
また学校や義務教育制度ができて、一般の人が様々な知識を持ち、様々なモノに関心を持つようになった。
休みの日にはバスや鉄道に乗って、百貨店に出かけたり温泉へ行ったり観劇したり。
さらにバスや鉄道が通勤に利用され始めると、暮らしている地域の外で働く人もどんどん増えた。
今では、住んでいる地域外で働いている方が普通で、仕事は変えないけれど、住むところをどんどん変える人も増えた。
その結果、人々は家族や地域のクラスター以外の様々な地域外クラスターに参加するのが当たり前になった。
地域外クラスターのメンバーについては、地域に住む人間には全くわからないし、人々が生まれ育った場所を離れ、頻繁に住所を変えるのが当たり前になると、地域内に住む人間についてもわからなくなる。
さらに明治維新から100年以上たった現代では、インターネットが普及し、直に顔を合わすことがなくとも、様々なクラスターに参加することができるようになった。
つい100年ちょっと前には、狭い地域の地域クラスターが殆どの人にとって唯一の所属クラスターであったのに、今や、家族・地域・学校・職場・職種・業界・趣味など、様々なクラスターに同時に属して生きるようになったわけだ。
その結果、誰がどこで誰とつながっているのかはわからなくなり、ネットワークの殆どが見えなくなったということらしい。
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